穢れなき獣の涙
「わたしはミレア、集落の長の娘です」

 形の良い唇からそれに見合う声が発せられた。

 魔導師と呼ばれる種族は、その言葉にも力があるとされていた。

 彼らに応えるだけでも支配されてしまうと恐れられた時代もある。

 本来、魔導師という言葉は彼らの名ではなかった。

 生まれながらに持つ高い魔力のために、いつの間にかその名で呼ばれるようになっていたのだ。

 彼らにとって、あまり喜ばしいものではなかったけれど昔と異なり、今は敬意の念も含まれていると解って、魔導師という名にそれなりの好感を持つようになっている。

「あなたは、シャグレナ大陸に行かねばなりません」

「ミレアと言ったかの。それはどういう意味なんじゃ?」

 割って入った古の民を一瞥し、少女は説明を始める。
< 276 / 464 >

この作品をシェア

pagetop