穢れなき獣の涙
*記憶の渦
──シレアたちはシャグレナ大陸の中央より、やや北方に解放された。
見渡す限り荒れ野が続くばかりで視界すら肌寒く、走る風は甲高い音を立てながら背の短い草をなでつけていく。
「寒い!? なんでこんなに寒いの!?」
「シャグレナ大陸は他の大陸と違い、特殊なマナの流れじゃからなあ」
叫んだヤオーツェに苦笑いを返した。
この世界のあらゆる場所に流れ、充満しているエネルギー「マナ」は、全ての存在に影響を与えている。
「本来は縦横無尽に流れている大地のマナが、この大陸に限っては少ないと聞いた」
エルフの言葉に古の民は頷き、さらに続ける。
「大地のマナは本流から支流が幾重にも分かれ、地中を駆けめぐっておる。しかし、この大陸は本流自体も細く、そこから伸びる支流も数が少ないんじゃよ。その分、他の大陸とは異なる特異な植物があるそうじゃ」
「そのせいで背の高い草木はあんまり生えてないのか。俺たちにもちょっときついかな」
マノサクスは小さく溜息を漏らした。