穢れなき獣の涙
 されど返事は返ってこず、肩をすくめてシレアと顔を見合わせた。

 ノブを軽く握り引いてみると、扉はきしみをあげて開く。

「不用心じゃな」

 再び見合い、気配を探りつつ足を踏み入れた。

 室内は温かく、窓から差し込む陽射しのおかげで廊下は明るい。

 しかし、掃除はしていないのか埃(ほこり)っぽく、何に使うのかわからないものがあちこち乱雑に積まれていた。

 廊下を進み、少し隙間の空いた扉の前に立ち止まる。

 どこか異質な空気が立ちこめる建物内に、意識は自然と周囲を警戒していた。

 かたかたと窓を叩く風を聞きながら扉をくぐる。

 そこは薄暗く、やはり掃除されていないことが窺えた。

 ここは書斎だろうか、棚には多くの書物が並べられ、奥にあるテーブルの上には何枚もの紙が散らばっていた。

「不在のようじゃな」
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