穢れなき獣の涙
 しかしすぐ、その表情を隠す。

「何か用か」

 薄汚れた灰色の髪は、過酷な土地で生き抜いている証のように湿り気を無くし、オレンジの瞳は心の奥底にある何かを引き留めているように輝いている。

 四十代も、とうに終わりに近づこうとしている男はマントを脱いで壁のフックに吊した。

「マイナイ殿で相違ないか」

「それがどうしたね」

 再びの問いかけに、男はぶっきらぼうに答えて椅子に腰掛ける。

 歓迎されていないのは彼の態度を見れば明瞭だ。

 どうしたものかと仲間たちは互いに見合ったが、ユラウスはめげずに問いかけた。

「少々、訪ねたいことがあるのじゃが」

「なにが知りたい」

 あからさまに嫌悪を示していたマイナイだったがふと、視界に捉えた青年に目を留めて体を強ばらせる。

「まさか……。いや、そんなはずはない」

 思い出した一瞬に首を振る。その表情に、ユラウスは男を見据えた。
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