穢れなき獣の涙

*図り知る思い


「まずは、私の話をしよう」

 得意げな瞳が一同を一瞥していく。

「私は、とある領主の医師をしていた」

 昔を懐かしむ声色となり、視線は遠くを見やる。

 薬は金と同等かそれ以上の価値を持ち、そのため薬学を極めた者たちは錬金術師と呼ばれるようになった。

 全ての者が魔法を操れる訳ではない。

ましてや、魔法使い(ウィザード)が治療系の魔法を使えるとは限らない。

 そのうえ、ほとんどの病気は魔法では治すことが出来ない。

 薬の技術は知識でなんとでもなるものだ。

限られた者しか扱えない魔法よりも、格段に汎用性が高い。

 錬金術師と呼ばれる者たちは、薬の技術と共に哲学を重んじた。

薬の効果を追求し、果てに生命とは何かを問い続ける。

 領主はそんな錬金術師たちに感化され、いつしか禁断の法にまで踏み入る事に──

「初めは薬を作る我らの手元に注目し、次に彼は合成生物にいたく興味を持つようになった」
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