穢れなき獣の涙
「そうか」

 シレアは小さくつぶやくと、微かに笑みを浮かべた。

「もう良いのか?」

 立ち上がったシレアに問いかけると、なにかを思い出したように振り返る。

「一つ、訊きたいことがある」

「なんだね」

 マイナイは、シレアの動きを一つ一つ確認するかのごとく視線を泳がせ、嬉しそうに口の端を吊り上げる。

「納得の出来る存在を造り上げたと言うことだが、他の者はどうなった」

 その言葉にユラウスたちはハッとした。

彼らは一体、どれだけの実験を繰り返し、シレアを造り上げたのか。

 マイナイは青年の瞳をしばらく見つめ、そんなことかと小さく溜息を吐き出す。

「私がいた頃には皆、生きていたよ。囲いの中でだがね」

 シレアがいなくなってしまうと途端に興味が失せたマイナイは、領主の元を離れてこの地に棲み着いた。

 世俗から遠のき、植物や薬の研究に没頭できる今の環境に満足している。

「解った」

 シレアはそれだけ聞くと、マイナイに背を向けた。
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