穢れなき獣の涙
「近頃よ、どうにも変な空気を感じるんだが」

 エンドルフは胸当て鎧(ブレスト・プレート)が気になるのか少し持ち上げ、苦い表情で問いかけた。

「ああ。大気が妙だ」

 鎧類は一切、身につけていないシレアも眉を寄せる。

 この、わずかな変化に気付いている者はほとんどいないだろう。

 気のせいとも思えるほど、ごく小さなものだが心に重くのしかかるような感覚は、気のせいと言い切るにはどうにも気にかかる。

 どこか、得体の知れない不安感とでも言うのか。

 とはいえ、そんな曖昧なものに執着しても仕方がない。

「お前はどこに行くんだ?」

 旅の途中に再会した友に視線を送る。

 短くもない付き合いに、シレアの返答は予想がついていた。
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