穢れなき獣の涙
 その背にまたがる影があることに、アレサたちはさらに驚いた。

 革鎧(レザーメイル)に身を包み、流れる赤毛にダークスレートブルーの瞳はまさしく、シレアがウェサシスカで見た女だ。

「ここで終わりにしよれ」

 女は鋭い視線を向けて居丈高(いたけだか)に言い放った。

 優雅に伸ばした右腕からは、強い敵意がひしひしと伝わってくる。

「ようやく、敵のお出ましということでしょうか」

「そのようじゃ」

「それくらい、せっぱ詰まってきたってことかな」

「だろうな」

「オレ、いきなり攻撃受ける立場なんだけど」

 緊張感をぶちこわすマノサクスの言葉に、ユラウスは深い溜息を吐き出す。

 ある意味、そういう人間も必要なのだと言い聞かせ眼前の女を見やった。

 アシッドドラゴンは待ちきれないのか、早く命令してくれと言わんばかりに低く唸りを上げてしきりに首を振っている。
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