穢れなき獣の涙
 女はそんなドラゴンを制しながら形の良い唇に笑みを浮かべ、口の中で何かを唱えた。

 それを見たユラウスもすかさず詠唱を始める。

 古の民が唱え終わると、淡い光が自分たちを包み込んだ。

「これなに?」

「解毒魔法じゃ。これは範囲魔法じゃが──」

 マノサクスに応えて、少し離れた場所にいるシレアとヤオーツェに表情を険しくした。

「あの二人には届かなんだ」

 悔しげに発し、女の唱える魔法に体を強ばらせた。

 ユラウスが唱えた解毒魔法は、アシッドドラゴンへの対抗策だ──かのドラゴンは毒の息(ブレス)を吐き出す。

 毒の効果はアジッドドラゴンが棲んでいる場所にもよるが、吸い込むと呼吸困難はもちろん、最悪では死に至る。

 女の魔法ははっきりとは聞こえないため、どのようなものなのかは解らないが強力なものらしく、詠唱はユラウスのそれよりも時間がかかっているようだ。
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