穢れなき獣の涙
 アレサの馬は何もしていないのに少しずつ球体に近づいている。見回すと、それぞれの馬も引き込まれているようだ。

 必死に抵抗するも、球体の力が強すぎて抗えない。

「あれは何の魔法なんですか!?」

「重さを操るものじゃ!」

 名は確か──アタラクト

「吸い込まれたらどうなるの!?」

「わしが知る訳なかろう!」

「やばいよシレア!」

 ヤオーツェがシレアを背後から見上げるが、相変わらずの無表情に不安でしかない。

「チッ!」

 女は憎らしげにシレアを見やるとドラゴンの手綱を引いた。

「引き込まれるぞ!」

 逃げていくドラゴンの影を見送りつつ、そんな場合じゃないとどうにか馬を制御する。

 もがくあいだにも黒い球体はどんどん膨れあがり、吸い込む風が嵐のごとくすさまじい音を立てる。

「だめだ!」

「うそだろー!」

 叫びすらも虚しく、ユラウスたちは足を取られた馬と共に球体のなかに消えた──





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