穢れなき獣の涙
 それを思えば、来(きた)るべき敵に立ち向かえる者だとは思えない。

 敵が姿を現し始めたいま、なおさらに心配になる。

「彼らは穏和な種族です。争いに巻き込むことには躊躇いが」

「うむ、アレサの意見にはわしも同意じゃ」

「でも」

 ヤオーツェは詰まらせながらも声を絞り出す。

「この集落だって危険なんだろ?」

 一同はそれに目を伏せた。

 本人がどうであろうと、敵はシレアの仲間になり得る者を知ることが出来る。

 アレサやヤオーツェ、マノサクスの事を思えば、何も言わずに終わりという訳にはいかない。

 しかし、話せばついてくるしかないだろう。

「……シ」

 何かに気付いたシレアは会話を止める。

 気配を探り、脇に置いていた剣を素早く手にして抜いた鞘(さや)を背後に立っている木に投げつけた。

「キャッ!?」

 すると、高い声と共に何かがどすんと地面に落ちた。

「なんじゃ? 子どもか?」
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