穢れなき獣の涙
[我が理想の前では意味を成さぬ]

「勝手な!」

 ヤオーツェは怯えながらも自身を奮い立たせて怒りを吐き捨てる。

[これ以上、我の前に立ちはだかるならば、覚悟しておくがいい]

 影は一度、脅すように大きく膨れあがったかと思うと、音もなく四散して消えた。

 一同は喉を詰まらせ、しばらく互いを見合った。

 そして、初めて目にした敵に吹き出た汗を拭う。

「なにあれ。今のが敵?」

「──の親玉じゃろうな」

 未だ夢から覚めやらぬモルシャに答える。

 とはいえ、ユラウスも冷静に答えているようでその実、手の震えは収まっていない。

「なんか、怖かった」

「皆、そうだ」

 ヤオーツェもアレサも微かに声が震えている。

「影だけであの威圧……。かなりの強敵だね」

 マノサクスもさすがに冷や汗を垂らし、苦笑いを浮かべた。

 本当に自分が何かの役に立てるのか、今更ながら考え直す。

< 331 / 464 >

この作品をシェア

pagetop