穢れなき獣の涙
「あの」

 そこに、レキナが戸惑いながら現れてモルシャは溜息を漏らした。

「なに? まだ何かあるの」

 昔から気弱なのは相変わらずで呆れてしまう。

「その、無事でいて」

 おずおずとペンダントを差し出す。

「これ……」

 それは彼らコルコル族のお守りらしく、集落のあちこちに同じような彫刻が見受けられる。

 使われている木は香木だろうか、そこに彫られているドラゴンはコルコル族の守護神だ。

 本当なら三日はかかるシロモノなのに、急いで彫ったのかレキナの手にはあちこちに切り傷があった。

「手、大丈夫?」

「え。あ、うん」

 レキナは照れ笑いを浮かべて手を隠す。

「ばかね」

 レキナはいつも優しかった。

 喧嘩も、揉め事も嫌いで怒った顔を見た事が無い。

 だけど、自分が間違っていないと思うことは決してまげなかった。
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