穢れなき獣の涙

 ──外に出たユラウスたちは、しばしの休憩に体を伸ばす。

 陽はすでに目線まで傾き、すぐに地平へと隠れていくだろう。

「長老はどんな反応をするでしょうか」

「うむ。にわかには信じられぬじゃろう」

「シレアってエルドシータだったんだね」

 脇からマノサクスがひょいと顔を出した。

「わしも先ほど聞かされるまで知らなんだ」

 エルドシータ──自由を愛し、自然と共に生き、気の流れを読む事に長けた民のことをさす。

 しかし、その容姿に統一された特徴は見られない。

 彼らには、旅先で捨て置かれている子を拾い育てるという慣習がある。

 そのため、このような辺境の地にあっても血は濃くならずに集落は長く続いている。

 集落に住む大半の男性は、成人になる十七歳で流れ戦士として旅に出る。

 西の辺境のどの辺りに集落があるのかをほとんど知らない者のなかにあって、彼ら民の名は広く知れ渡っていた。

 それだけ強く、名の知れた戦士や騎士が多いということだろう。


< 342 / 464 >

この作品をシェア

pagetop