穢れなき獣の涙
──シレアから聞かされた真実に、ディナスは小さく唸りを上げる。
「なるほどのう」
本人の口から紡がれたものではあるものの、信じ切ることは難しい。
若かりし頃には草原を駆け回り、モンスターともやりあっていた。
されど、そんな日々はとうに過ぎ去り、今は集落を束ねる者として皆を導かねばならない。
我が息子の言葉をすぐに信じるには、あまりにも突飛で重い。
「私を拾った時の状況を、出来るだけ詳しく知りたい」
「そうは言われても、以前に話したことが全てじゃよ。ぬしを造ったという人物には会ったのじゃろう?」
その問いにシレアは黙り込んだ。
「まさか、大して質問もせずに別れたのか? おぬしらしくもない」
「真実さえ解ればそれでいいと思った」
そのときは確かにそれで良かった。
いま考えると、それだけで良い訳ではなかった。
「それはそれでおぬしらしいな」
長年、シレアを育てたからこその言葉だ。
「王都にはあまり立ち寄らないわしが、あのときはどうしてだか足が向いた」
不思議よの……。当時を思い浮かべて目を閉じる。