穢れなき獣の涙
「よく奴隷商人に目を付けられなかったと思うくらいには、出会ったときから整った顔立ちをしておった」

 あるいは、ディナスが見つけなければそうなっていたかもしれない。

「金持ちが見つけていたらまた、違っておったじゃろうが」

 そうなれば今頃は、裕福な生活を送っておったかもな。

「その金持ちに同い歳ほどの娘なんぞおったれば、そのまま結婚という流れにも──」

「起こってもいない妄想を続けるな」

 いつまでくだらないことを喋くっているんだと眉を寄せる。

「無表情で、無愛想で、可愛げのない子供じゃったが」

「悪かったな」

「集落に連れてくればまあ、馴染まない馴染まない」

「悪かったよ」

「そのくせ、剣術はすぐに強くなりおる。あげくに、魔法まで覚えおってからに」

「もういい」

 話を聞いた自分が馬鹿だったとシレアは頭を抱えた。

「血はつながっておらずとも」

 ふいに、今までのもとは違った声色に思わずシレアは目を合わせる。
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