穢れなき獣の涙

 ──外で待つ一同は、丸太の塀がぐるりと集落を囲っているにも関わらず、見える山肌を眺めていた。

「リンドブルム山脈がこれほど近くにあるとは」

 ユラウスはそびえ立つ山々を仰いだ。近いとはいえ、山脈の足元までは数日はかかる。

 それほどにリンドブルム山脈は大きく、雄々しい。

「シレアにいちゃん、本当に一人でこの山を越えたの?」

「えっなにそれ? あいつ凄いわね」

「東に見えるのはマテレリア平原ですね」

 のんびりと風景を楽しんでいたとき、人々のざわめきが聞こえた。

「なんだあれは!」

「こっちに来るぞ!?」

 まだらに広がる雲の間を飛び交う影は徐々に大きくなっていき、それが何かを確認できた人々の顔が青ざめる。

「ドラゴン!?」

「ドラゴンだ!」

 口々に声を上げる集落の人々とは違い、モルシャたちは「ついに来たか」と身構えた。

 しかし、

「いや待て、あれは──」

 太陽に照らされて輝く、まぶしいまでの純白の鱗には見覚えがある。
< 346 / 464 >

この作品をシェア

pagetop