穢れなき獣の涙
──外で待つ一同は、丸太の塀がぐるりと集落を囲っているにも関わらず、見える山肌を眺めていた。
「リンドブルム山脈がこれほど近くにあるとは」
ユラウスはそびえ立つ山々を仰いだ。近いとはいえ、山脈の足元までは数日はかかる。
それほどにリンドブルム山脈は大きく、雄々しい。
「シレアにいちゃん、本当に一人でこの山を越えたの?」
「えっなにそれ? あいつ凄いわね」
「東に見えるのはマテレリア平原ですね」
のんびりと風景を楽しんでいたとき、人々のざわめきが聞こえた。
「なんだあれは!」
「こっちに来るぞ!?」
まだらに広がる雲の間を飛び交う影は徐々に大きくなっていき、それが何かを確認できた人々の顔が青ざめる。
「ドラゴン!?」
「ドラゴンだ!」
口々に声を上げる集落の人々とは違い、モルシャたちは「ついに来たか」と身構えた。
しかし、
「いや待て、あれは──」
太陽に照らされて輝く、まぶしいまでの純白の鱗には見覚えがある。