穢れなき獣の涙
 少しでも踏み外せば崖下に真っ逆さまだ。

 重ね着をするにはまだ早い。

 現状では返って汗をかき、体力を消耗させてしまう。

 充分寒いが限界まで耐えなければ。

 次第に風は強くなり、雪がちらつき始めた。

 用意していた毛皮の首巻きを取り出し、首にまいて先を目指す。

 予想よりも歩みが遅い。

 陽は傾き、山間を抜ける風が夜をつれてくる。

 これ以上は無理だと諦めて比較的、風の弱い岩陰を見つけてマントにくるまる。

 これからさらに険しくなるであろう予感に顔をしかめ目を閉じた。



 ──まぶしさに目を覚ますと吹雪は去り、青空がシレアを迎える。

 さっそく発とうと周囲を見渡すも、獣道すら失われていた。

 諦めて地図を頼りに再び足を踏み出す。


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