穢れなき獣の涙
──暗く、冷たい部屋で赤毛の女は男の前にひざまずく。
石を削って作られた空間は、ロウソクの灯りにゆらゆらと不安定に存在しているかのような錯覚を導き、その部屋には相変わらず不釣り合いとも思える絢爛たる玉座が男の威容(いよう)を際立(きわだ)たせている。
「どうして殺さないのです」
問いかけられて男は、カデット・ブルーの瞳を細めた。
「奴は俺と同じ。いざという時にその力を発揮しかねない」
女をしばらく見つめたあと、ささやくように発した。
「失礼ながら、奴があなたと同じ力を持っているかどうか、解らないのでは」
言ってすぐ、鋭い視線が女を射抜き、女はびくりと体を強ばらせた。
苛つきを感じた女が萎縮すると、男はそれを和らげるように口角を緩めて右手を差し出した。