穢れなき獣の涙
「エルドシータは大気を読み、自然の理(ことわり)をその身に感じると聞いたが、おぬしはどうじゃ」

 おぬしがその民に拾い育てられた事には、何かの意味があるはずじゃ。

 静かに語られる言葉に、シレアはゆっくりと瞼をおろす。

「そんなところから遡って理由があるの?」

「世の中はわしらの想像も及ばぬ事がままある」

 いくらなんでも、そこまでシレアに求めるのってどうなんだろうとモルシャは顔をしかめた。

「私の中に眠る血に時折、恐怖することがある」

 噛みつぶした声は得体の知れない何かに対する畏れが現れていた。

「ふむ。一体、どれほどの種を用いたのか」

 ヴァラオムは小さく唸る。

「そういや、全部は教えてくれなかったよね」
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