穢れなき獣の涙
「アレサ、信じて良いのだな」

 長くも短くもない文章から伝わるものに目を伏せた。

「幼少から優しく、強く、何にも目を背けない者だった」

 彼が立ち上がらねばならぬときだと言うのなら、それは真実なのだろう。

 それを拒む理由はどこにもない。

 キケトは納得したようにひと言唸り、側にあるデスクを引き寄せると紙を前にインクを染みこませた羽ペンを走らせていく。

 それは何通にも及び、丁寧に時間をかけて書き上げると、それぞれを折りたたみ蝋(ろう)で封をして若いエルフたちに手渡した。

「これを長たちに必ず届けるのだ」

 一通、一通を手渡されたエルフたちは無言で頷き、足早に集落をあとにした。




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