穢れなき獣の涙
◆第十二章-対峙する勢力-

*空からの使者


 次の朝──シレアが外に出ると、ユラウスたちが遠方の空をいぶかしげに眺めていた。

「どうした」

「あれ」

 ヤオーツェの指差す方向を見やると、なにやら大きな黒い影が空に浮遊している。

「この時期に?」

 シレアは目を眇(すが)め、浮かぶ大陸に眉を寄せた。

「やっぱり変だよね。いつもあっちから見てるからよく解らなかったんだけど、この時期にここは通らない」

 マノサクスは小さく唸り、小首をかしげた。

 一年に一度は四大陸の上空を通過するのだが、頃合いは大体決まっている。

 途中に気流の激しい場所でもあったのだろうか。

 それにしたって、そんな事が長く続かなければこの季節にリンドブルム山脈の上空近くを浮いているなんて事はあり得ない。
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