穢れなき獣の涙
「動かしはしたが、大気自体も早くなっているからここに着くのは思っていたよりも早かった」

「お久しぶりです」

 少女はシレアに軽く会釈し、一同を一瞥していく。

「魔導師、直々(じきじき)のお出ましとは。何かあったのですか」

「大きな黒い影が姿を現し始めました」

 その言葉に、シレアは眉を寄せる。

「黒い影とな?」

 ユラウスは慌てたように割って入った。

 何故、自分には何も見えなかったのかと驚きを隠せない。

 自分については見えない事が多いとは昔に聞いていたけれど、やはり巨大な流れのただなかにいるせいなのか。

「それはすでに、強大な力を得ています」

 身を隠すこともせず、堂々と我らの目を見つめ返している。
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