穢れなき獣の涙
 とはいえ、ここまで気を張り詰めて無理をしたせいだろう、体力もすでに限界に近い。

 平原を見渡しているこの間にも、意識はじわじわと遠のいていく。

 たどり着いた安堵感も加わってか急速に視界が狭まり、いつしか目の前は真っ暗になった──



 ふと、頬にあたる風に目を覚ます。

 どこにも痛みはない、どうやら無事でいるようだ。

 安全確保もせずに眠ってしまうなど不甲斐ないと自分に呆れる。

「ん?」

 シレアは、ぬめりのある何かが頬に触れていることに気がついた。

 まるで大きななめくじが這っているような。

 だけれども、なめくじにしては動きが速い。

 これは……大きな舌のようにも思える。

 ゆっくりと目を開き、震える腕で上半身を持ち上げた。
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