穢れなき獣の涙
──重たい空と軽く冷たい風が吹き抜ける北の大地。
「やっぱり寒い!」
ヤォーツェは声を上げで首に毛皮を巻いた。
周囲を見回し、慌てて魔法を唱え自分の周囲に温かい気をまとう。
脇には見知った家屋が見える。
どうせ、もぬけの殻だろう。
どこかで高みの見物でもしているに違いない。
「乱れが激しい」
シレアは空を仰ぎ、苦く発して目を眇めた。
心にくすぶる言いようのない不安感をユラウスたちも感じているようだ。
皆、一様に口を閉ざし険しい表情を浮かべている。
「何か聞こえませんか」
「うん?」
アレサの言葉に、ユラウスたちは耳をそばだてゆっくりと荒れ地を見渡す。
微かに伝わる振動に気がついたとき、
「──うそだろ」
遙か遠方に見えた揺らぎにマノサクスは、これはだめだと思わず笑みを浮かべた。
どす黒い波のように迫り来る塊は、怒号を発しながらその足を止めること無くシレアたちに向かって来る。