穢れなき獣の涙

*張りぼての山


 モルシャは群がるモンスターに、無駄とは思いつつも短剣を手に身構える。

「ちょっと、どういうことなの。こいつ誰よ?」

[ネルサは竜人だ]

「え、なにそれ」

「まさか竜人が生きていたとは」

 古の民と同じく、古き種族だ。

 ドラゴンの血を色濃く受け継ぐ種族は元来、人よりもドラゴンに近い姿をしていた。

 しかしそれも時代が下るにつれて人に近くなり、滅びが間近になった頃にはドラゴンの力を持つ者は半数以下となっていた。

[奴は誰よりも竜に近い]

「先祖返りってやつ?」

 見る限り人間とまったく変わらないけど、ヴァラオムみたいに化けているだけかしら。

 どことなくだがシレアに似ている気もした。

 顔つきがどうという訳ではなく、全体的な雰囲気が少し似ているかもとモルシャは思った。

 しかし、シレアから伝わる柔らかな優しさとは違い、ネルサからは鋭い怒りと憎しみのみが伝わってくるだけだった。
< 395 / 464 >

この作品をシェア

pagetop