穢れなき獣の涙
「まだ決めていない」

 エンドルフはそれに口の端を吊り上げ、短い赤茶けた髪をかき上げた。

 濃いグレーの目は細く、一重まぶたに似合わぬ豪快な口元。

 エンドルフは戦斧を繰(く)る放浪者(アウトロー)だ。

 二十六歳とは思えぬ貫禄がある。

 細身のシレアと並ぶと、その体格差は二回りほどもある。

 流れ戦士と呼ぶには、シレアはいささか軽装過ぎるところもあった。

 その腰には七十センチほどの剣が提(さ)げられ、魔法のまったく使えないエンドルフと違い、シレアはかなり高度な魔法も使いこなす。

 二十四歳ながらも、どっしりとした風格が漂っている。

 落ち着いた様子で空を仰ぐシレアの瞳はしかし、何かを射抜くように鋭く輝いていた。

「まあ気をつけろよ」

 エンドルフは軽く手を挙げ、旅を再開するため馬を進めた。

 青年も同じく手を挙げて応え、その後ろ姿を見送る。

「何が隠れているのか」

 シレアはつぶやくと、しばらく草原と空を見渡しゆっくりと街に向かった。




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