穢れなき獣の涙
*暗き道
「お前は全てを手に入れているというのに、それに気がつかない」
わたしがどれほど欲しても、そのどれをも手に入らないものなのに。
「わたしに与えられたものは、冷たい牢獄と物言わぬ兄弟だけだった」
それがわたしの全てだった。
お前だけが特別だった、お前だけが愛された。
「ネルサ様は、そんなわたしに光を与えてくださったのだ」
いぶかしげに見つめていたシレアだったが、女の綴る言葉をつなぎあわせ、ようやくその意味を徐々に理解し始める。
「そうか、お前は──」
「これが赦せるものか!」
悲痛な叫びと共に剣を構えた。
「失敗作だと罵(ののし)られ、カビ臭いじめじめとした暗い地下牢に閉じ込められ。まともに話すことも出来ない兄弟に殺意すら覚えた。それでも、わたしの兄弟だ」
突き出すように繰り出されるシルヴィアの剣をかわし、振り上げられた刃を受け止める。