穢れなき獣の涙
「そうやって、きれいごとばかり並べ立てる貴様など殺してやりたい」

 最も憎むべきは貴様なのだ。

「それでも」

 ──それでもネルサ様のためなら、わたしの憎しみなど飲み込んでしまおう。

「奴は己の憎しみを成就させようとしているに過ぎない」

「解るものか。貴様になど、解ってたまるものか」

「解りようがない。私はお前ではないのだから」

 もしも同じ境遇に置かれたなら解るかと問われれば、それは違うと言える。

「私はお前にはなれない」

 その言葉に女は立ち止まる。

「当たり前だ」

 そんなことは解っている。

 わたしがお前のようになれたなら、どんなにか幸福だったろう。

 何度それを考えただろうか。されど、全てが違いすぎた。
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