穢れなき獣の涙
「お前は運が悪いと言われることに怒りつつ、どうしてそこから抜け出そうとしなかった」

「黙れ!」

「生まれを選ぶことが出来るのかどうかは解らない。だが、道を選ぶ機会はあったはずだ」

「黙れえ──!」

 何も知らないくせに!

「そうだ。私に理解出来うることは少ない」

 私が言っていることはただの正論に過ぎず、極限状態のなかで選択の道を見つけることは難しい。

「ならば、私に言えることは限られている」

 誰しも万能ではない。

 例えば、私とお前が逆の立場だった場合──

「お前は果たして、私と同じ思いでいただろうか」

「黙れと、言っている」

「私はお前と同じく、この世を憎んだだろうか」

「ぺらぺらといつまでも!」

「まだ間に合うこともある」

 手遅れだと諦めるよりも、成せる方法を見つけ出すことが先ではないのか。
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