穢れなき獣の涙
*力の行方
シルヴィアはシレアを睨み付け、矢庭(やにわ)に詠唱を始める。
その長さから、上級ではないにしろそれなりに強い魔法だと窺えた。
そうして女は、手に浮かぶ青白い球を愛でるように見やり、パチパチと帯電しているエネルギーの塊を投げつけた。
だがしかし、エナジーボルトはシレアにではなく、見物気取りのネルサに向かって飛んでいく──矢のごとく放たれたエネルギーは当たることなく、男の眼前で虚しくかき消えた。
「なんのつもりだ」
シルヴィアは剣を握る手を小刻みに震わせながらも、怯むことなく睨み返した。
「私を救いたいと仰ったならば、どうしてシレアに会わせてくれなかったのです。彼の幸せだけを私に語り、憎しみを植え付けたのですか」
ネルサは張り上げたシルヴィアに眉を寄せ、
「そんなことか」と喉の奥から笑みを絞り出す。