穢れなき獣の涙
「まさか──。いや、そんなことが」

[そうだ。なんと懐かしい]

 信じられないと首を振るユラウスにヴァラオムは応えて目を細めた。

「どういうこと?」

 何かに気付いた二人にモルシャは首をかしげる。

 シレアから吹く風はどこか心地よく、血みどろの戦場に妙な安心感を漂わせていた。

[ネルサが怖れるドラゴンとは、自然の中に生き、この世界を愛していた存在だ]

 かつて古の民、ロデュウと共に世界を歩き、千年以上も昔に絶えた巨大竜──

[今はエンシェント・ドラゴンと呼ばれている]

「えっ古代竜!? うっそ!?」

「モルシャが驚くのも無理はない。数少ない彼らの遺物は掘り尽くされ、今現在出回っている骨や鱗は全て偽物じゃからな」

[よもや、マイナイたちが本物を有していたとは驚きだ]

「そうだ。古代竜は死に絶えた。全ては人間が増えすぎたせいだ」

 ドラゴンはことごとく狩られ、生き残ったドラゴンたちにもはや安息の地は存在しない。

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