穢れなき獣の涙
[虫けらどもめ!]

 人々の力はさらに強くネルサに痛みを与え、もはや、恫喝も炎の息(ブレス)も、向かってくる者を怯ませる事は出来ない。

[我が、負けるというのか]

 あり得ない。

 最も強大な力を持つ我が、こんな愚か者どもに倒されるはずがない。

 なんと醜悪な。

 馬鹿げている。

[我は、神なり]

 世界を絶やし、創り直すのだ。

 俺は、道具なんかじゃない。

 呻くようにつぶやくと、ゆっくりと動きを止めた。

「倒れるぞ! 避けろ!」

 そうして、ズシンと一度大きく地面を響かせて倒れ込んだ漆黒のドラゴンは、そのまま動かなくなった。

「こいつめ」

「やめろ!」

 一人の男が憎らしげに横たわったドラゴンの体を足蹴にし、シレアはそれを強く制した。

「しかし──!」

 男とその周囲にいる者は少し驚いたが、シレアの鋭い眼差しに言葉を詰まらせる。
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