穢れなき獣の涙
 それに嘆くだけでは、

「この先にある己の人生をも、選ぶことを止(や)めた者だ」

 どうしようもないこともあるだろう、何をしたって上手く行かない時もあるだろう。

 しかし、初めから憎しみだけで動くなら、それはただ己の生まれに囚われている者だ。

「例え、それが間違った選択だったとしても」

 お前は全身全霊で、尽きる運命に抗った。

[シ、レア]

 どうしてこうも、お前は俺と向き合える。

 何故、真っ直ぐに俺を見つめる事が出来る。

「お前が、私に全てをぶつけてきたから」

 憎しみも、哀しみも、怒りも。

 許せないと感じたものを、私に心で問いかけた。

[皆が、お前のようであればな]

「そんな世界はつまらない」

 すっぱりと言い放つシレアに目を丸くして、喉の奥から笑みを絞り出す。

[これが、人か]
< 456 / 464 >

この作品をシェア

pagetop