穢れなき獣の涙
 醜く、厚かましく、儚く、弱い。

 それでいて強く、美しく、清らかな。

 何かに抗いながら、何かを許容し──

 まるで、この世界の全てを詰め込んだような存在だ。

「この世の哀しみを全て消し去ることなど、不可能に近い」

 だが、それを目指そうとする意思は決して絶えることはないだろう。

 全ての者が、初めから諦めたりはしない。

「一人一人がそう、あれるように。それではだめか」

 シレアの背後には、多くの種族が彼の言葉に従うように、ネルサをじっと見下ろしていた。

 信じて欲しいと、その目がネルサを見つめる。

 ネルサはそれぞれの瞳を一瞥したあと、

[……それでよい]

 満足げに小さくつぶやいてゆっくりと瞼を閉じ、ふいに呼吸が止まる。

 動かなくなった体を、いくつもの小さな光りが慈しむように覆い、仕舞いには四散して、数多の光は天へと昇るようにそれぞれ散らばり、音もなく消えた。





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