穢れなき獣の涙
*終わりに始まり
辺りをほのかに照らしていた光は消え、すでに夕暮れどきらしく薄暗がりの空が広がっていた。
「終わった。のか?」
あまりにもの静かな時間に、人々は呆然と立ち尽くす。
オークやコボルドたちはネルサが倒れて直ぐに逃げ出したため、戦いの音はすでになく。
荒野をねめつける風の音だけが響いていた。
「終わったんだ」
「勝ったんだよな」
「勝ったんだ!」
ようやく実感した勝利に、人々は一斉に歓声を上げて互いに喜び合う。
そして、暗闇に支配されつつある空に浮かぶ上弦の月を仰ぐシレアに、ユラウスが歩み寄る。
「まずは、運命を変えられた事を讃えようではないか」
シレアに剣を手渡す。
「そうだな」
応えてそれを受け取ると、柄(つか)に光るものを見つける。
そこには、大きな金緑石(クリソベリル)が淡く輝いていた。