穢れなき獣の涙
 動物にとっては今のシレアはまったく違った存在であるはずなのに、ヴァラオムとの付き合いでソーズワースにはどうでもいい事柄になっているのかもしれない。

 最後まで不思議なやつだと、改めてシレアを見つめた。

「おぬしの旅は、これからが本番だ」

 覆っていたしがらみから解放され、たったいまこれからが、本当のシレア自身の旅となる。

「何かあれば、いつでも尋ねてくるとよいぞ」

「ありがとう」

 手を振って魔法円(ポータル)に消える古の民に手を振り替えし、残されたシレアはようやくの落ち着きに深い溜息を吐いた。

 空で旋回を続けていたヴァラオムにも手を振り、静かになった荒れ地を見渡す。

 今までのことを思い起こし、ロシュリウスの最期の姿に強く目を閉じた。

 犠牲が無ければ今がなかったのだとすれば、彼はその生け贄となったのだろうか。

 多くの命が断たれ、生き残った者たちはそれを決して忘れてはならない。

 そうでなければ命を賭け、死んでいった仲間たちに顔向け出来ない。

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