穢れなき獣の涙
*這い寄る影
カナンは遠ざかるシレアの背中を見つめて唇を噛んだ。
彼の口から紡がれた言葉は好きでも嫌いでも、興味がないでもなく、なんて残酷なものなんだろう。
彼の瞳には誰も映っていない。
これから誰かを愛することも、待っている恋人も彼にはいないのだと、心が痛くなるほど伝わってきた。
けれど、冷たい人じゃない。
とても温かくて優しい。
なのに、どうして?
ひと掴みの希望もない事に落胆しながらも、彼ならばそれがどこかしっくりくると思える自分もいた。
出会って間もないというのに何故だろう。
接すれば接するほどに、感じる距離感は不可思議に揺らめいていた。