穢れなき獣の涙
「旅は──か」

 つまりは「旅を続けるなら心せよ」という事だろうか。

 シレアはそれに、剣を握る手を強める。

 旅を続けていれば数々の苦難が襲うのは当然だ。

 今更、そのような言葉で旅を終らせるつもりはない。

 この瞬間に死んだとしても、悔いなどあるものか。

 どちらかと言えば、あの影の言葉は願ったりだ。

 このまま平穏な旅などつまらない事このうえもない。

 そう納得付けて剣から手を離す。

「とりあえず」

 壁に置いてある自分の荷物を見やると再び剣を掴んで腰に提げ、ドアに手をかけた。

「旅の準備だ」

 険しい道のりとなるならばなおのこと、入念な準備が必要だ。

 むしろ報告してくれたことに感謝したくもなる。




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