穢れなき獣の涙

 ──旅慣れたシレアは準備をさっさと済ませてしまい、明日の朝に発つことを宿の主に告げた。

「え? もう発たれるのですか?」

 まだ三日目だというのに……。

 食堂で一人、帳簿をつけていたカナンは残念そうに見上げた。

 彼は放浪者(アウトロー)で流れ戦士なのだから、いつかは旅に出るのは当然だけれど唐突な別れにやはり戸惑ってしまう。

「本当ならば今日にでも発つつもりだった」

 そう言われると、なんだかホッとしてしまう。

 しかし、発つことに代わりはなく一日延びたというだけだ。

 まだここにいるのだという嬉しさと、どうせいなくなるのに返って苦しみが増すだけじゃないかという思いに手が震える。
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