穢れなき獣の涙
──真夜中、予備のマントを敷いて寝ころび、両手を頭の後ろで組んで星空を眺めた。
パチパチとオレンジに光るたき火の炎がほのかに暖かい。
暗闇に瞬く星は、その美しさと同時に夜道を示す導(しるべ)となる。
静かな時間を過ごしていたとき、黒い影がまた現れた。
二度目ともなると、初めほどの驚きはない。
[旅は、お前の行く先に、暗き影を落とす]
「私に何を望む」
それに影は応えない。
[引き返すなら今だ……。今ならまだ引き返せる]
ゆらゆらと揺れる影は闇夜に溶け込む訳でもなく、むしろ鮮明な黒を映し出す。
その気配から敵意は一切、感じられない。
しかし、影の向こうにある存在感はひしひしと伝わってくる。
この影は一体、何の目的で現れるのか。
そして、どうしてわざわざ忠告してくれるのか、なんとも親切な影だ。
しばらくすると、影は現れた時と同じように音もなく消えた。