穢れなき獣の涙
「すでに滅びたと思っていた」

「うん?」

 シレアのつぶやきに、いぶかしげな目を向ける。

「古の種族は生まれながらに強い先詠みの力を持っていると聞いた」

 占いとは異なる能力(ちから)、未来予知──それは、鮮明で曖昧な境界線の上に敷かれている。

 抽象的に展開される映像は時に、見た者を悩ませた。

 予知の力は争いにも用いられ、その力を利用しようと彼らを捕らえる者も少なくはなかった。

 いつしか古の種族は姿を隠し、世界から消えていった。

 彼らはエルフと同じかそれ以上の長寿だ。

「人間と似た種族だと聞いてはいたが、確かに見分けがつかない」

「何故わしがそうだと?」

「詠唱の言葉が少し違っていた」

 古い言葉が入り交じっていた。

 そう答えた青年に、あの状況でよくも聞いていたと感心する。
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