穢れなき獣の涙
「二千三百歳ほどになる。細かい歳は忘れた」

 己がどれくらい生きているかなど今更どうでもいい。

 この森にたどり着き、この森で最期を迎える覚悟でいた。

「わしが住み着いた事で、聖なる森は魔物の森と名付けられてしもうた」

「身を隠していたせいだろう」

「もう誰の目にも触れたくなかった」

 それなのに、長らく見ることのなかった未来がユラウスを苦しめた。

 いくらそしらぬ振りをしても、脳裏に浮かび上がる映像を自分の意思で止めることは出来ない。

 ユラウスは仕方なく影を飛ばして忠告した。

「理解したのなら引き返すがよい。お前にあるのは血の最期だけじゃ」

 見つめるユラウスの瞳は複雑な色を表していた。

 しかし、シレアは小さく笑うとカルクカンの手綱を手に、ゆっくりと歩き始める。
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