穢れなき獣の涙
「どこに行く。そっちは北じゃ」

「忠告は聞いた」

「馬鹿な! わしを古の種族だと知って尚、その予言を無視するというのか!?」

「無視などしない。聞き入れて進む」

 ユラウスは青年の言葉に唖然とした。

 進むなと忠告をしたにも拘わらず、忠告は聞いたから進むだと!?

「なんたる無謀な!」

 青年はぴたりと立ち止まり、声を荒げたユラウスに向き直る。

「私には失って惜しいものなど無い。進めぬのならば何の意味がある」

 感情を殺して生きることの辛さに比べれば、この先に待ち受ける苦難にさえも立ち向かえる。

 まだ見ぬものならば変えられるかもしれない。

「──なんと」

 その命を賭しても進むべきものがあるというのか。

 ユラウスは強く目を閉じ、記憶にある風景に眉を寄せる。
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