穢れなき獣の涙
 初めに誕生した最も古い人形(ひとがた)の種族は、生まれ出(い)でる新しい種族たちに翻弄され、嘆き、苦しんだ。

 もう、何にも巻き込まれたくはない。

 何にも利用されたくはない。

 ずっとそう思ってきた。

 しかれど、全てを見放した己に現れたヴィジョンは簡単に捨て去っていいものなのか。

 この人間に何があるのか、黒い影はこの人間をどうしたいのか。

「こんな若造に諭されるとはな」

 何も言わず見つめるシレアに腹をくくったのか目尻を吊り上げる。

「おぬしと共に邪悪な炎に焼かれる仲間の中に、わしの姿もあった」

 さすがにシレアもそれには驚きを隠せない。

「わしはそれが恐ろしくて忠告した。情けないではないか、誇り高き古の種族ともあろう者が」

「逃げることが悪い訳じゃない」

「どのみち、おぬしと旅をせずとも命を狙われる」

 それに眉を寄せた。
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