穢れなき獣の涙
 その姿はスラリと細く耳は皆、一様に長く尖っていた。

 まさしくエルフだ。手に手に細身の剣や弓を持ち、いつでも攻撃出来るように構えている。

「この地に何用か、人間!」

 声の主がエルフたちの背後から現れた。

 薄い黄色(コーン・シルク)の髪は長く艶やかに背中まで伸びていて、薄紫の瞳は二人を交互に見据えている。

「草原の民か」

 シレアはさして臆する事もなく柄から手を離し、その男を見つめた。

「いかにも。我は草原を統べる者マシアスの子にして、アザレアの息子、アレサ」

 堂々とした物言いに、己の種族に誇りを持っている事が窺える。

 長い口上は苗字を持たぬ者がよく使うものだ。

 ミドルネームやファーストネームといったものは、人間特有のものかもしれない。

 もちろん、人間にもシレアのように苗字のない者も多く、ユラウスのように古の種族でも苗字を持つ者がいる。
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