穢れなき獣の涙
「貴殿たちは、いかようでこの地に足を踏み入れた。ここは、我らがエルフの領域と知ってのことか」

「長(おさ)に会いにきた」

 少しのためらいもなく言い切った青年に、アレサは眉を寄せた。

「貴殿らの名は」

「シレア」

「ユラウス」

 エルフの青年はユラウスと名乗った男に睨みを利かせる。

 人間では無いと悟ったのか、怪訝な表情でまじまじと眺めた。

 そしてシレアに目を移し、彼の言葉の意味を問いかける。

「我らが長に何の用だ」

「尋ねたいことがある」

 揺るぎのない金緑石(きんりょくせき)の瞳は、心の奥を覗かせてはくれそうにない。

 アレサは二人を交互に一瞥し、小さく溜息を吐くと口を開いた。

「いいだろう。雨もあがった。我らの集落に案内する」

「有り難い」

「かたじけないの」

 二人は荷物を抱え、馬の手綱に手をかけた。





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