穢れなき獣の涙
──森から出ると、今まで降り注いでいた雨は止み、草の匂いと相まって、なんともいえない清々しさを感じさせていた。
肌寒い風が頬をなでるように通り過ぎ、湿った空気にシレアは空を仰いだ。
「貴殿はどこの者だ」
アレサは、いぶかしげにシレアを見つめて問いかける。
人間も住む場所によって特徴が出るものだが、彼にはそれが見受けられずにいた。
「西の辺境に住む民だ」
「西の辺境? 流れ戦士を多く生む民か」
「拾い子を育てる民とも聞く」
「私がそうだよ」
ユラウスの言葉にシレアは笑って応える。
それに驚いた二人だが、それでもアレサには疑問が残った。
例え拾い子だとしても、民の特徴はあるはずだ。
しかし、彼の風貌から雰囲気まで全てが不思議だった。
どの民の特徴も有しているような、どの民とも違うような。
首をかしげたくなるほどに不可解だ。