穢れなき獣の涙
 とはいえ、アレサもそれほど人間について知っている訳でもない。

「まあいい」

 自分の知らない部分があるのだろうと納得した。

 彼の出身など、わたしには関係の無いことだ。

 ──しばらく歩くと、草原に広い窪地が眼前に見えてきた。

 窪地には白い岩が連なっていて、あちこちに穴が開いている。

「集落はどこじゃ」

 ユラウスが眉を寄せてつぶやくと、白い岩の穴から人影が現れた。

 それはまるで断崖にある街のごとく、エルフたちが淡々と往来していた。

「こうして見ると面白い」

 シレアは発して、その不思議な光景を眺めた。

 エルフたちの立ち振る舞いはゆっくりとしていて、幻影のように揺らめいて見える。

 若草色の布地で統一された服を着た人々は皆、それぞれに整った顔立ちをしていた。

 さらりと流れる髪は、曇った空の下でさえ輝きを放っている。

 髪や瞳の色はバラバラだが、その面持ちには草原の民であることの特徴があった。
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