穢れなき獣の涙
 長い者では一万年を生きるとされるエルフは、ある年齢を境(さかい)に齢(よわい)を重ねるごとにその輝きを増していく。

 このエルフは、ユラウスと同じくらいの歳なのかもしれない。

 長寿のエルフといえど、過去の混沌とした時代を生き抜けた者は多くはない。

 草原のエルフは遙か昔に一度、その血が途絶えたとも言われている。

「これは珍しい。古の種族とは」

 嫌味のない物言いに、ユラウスも小さく腰を曲げて会釈した。

「長老のキケト様だ」

 アレサが敬意を込めて紹介すると、キケトは上品に頭を下げる。

 シレアもそれに応えるように同じく頭を下げた。

 そうして腰を掛けるように促され、キケトを挟んだいろりの前にしゃがみ込む。

 少し緊張気味のユラウスと違い、まるで知人の家にでも来たかのように落ち着いた様子のシレアにアレサはやや呆れていた。

「随分と肝の据わったお方だ」

 キケトはそう言って笑みをこぼした。
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